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「阻止砲撃を苦もなく耐えるチハ」の話


※この内容を見る前に一度、前回の更新内容である
「榴弾の至近弾でバラバラになるチハ」の謎』を見ておくことをお勧めします。




という訳で久しぶりのブログ更新です。更新するのは一年ぶりぐらいな気がします。
基本熱しやすく冷めやすいタイプなので、特に更新する為のネタがないからと更新を放置する私も考えものです。

それはさておき、前回『「榴弾の至近弾でバラバラになるチハ」の謎』では、九七式中戦車の榴弾による対弾性を「九七式中戦車に関する爆撃効力基準」なる資料にて解説し、九七式中戦車こと秘匿名称「チハ」が榴弾の至近弾ではバラバラにならないのでは?という事をお話しました。

しかし「バラバラの話は砲撃試験での結果であって爆撃試験の資料じゃ説明にならないのでは」というような意見や「よく分からんペラ紙一枚の資料だけじゃ……」という意見、また他にも別の資料による別の視点からの意見をチラホラとあちらこちらで見かけました。

特に興味深いのは2ちゃんの某所でのレスですが、以下のURに掲載された内容です。
http://peace.2ch.net/test/read.cgi/army/1406686543/376
その内容を簡単に解説すると「少数の砲爆撃ではなく、突撃破砕射撃(敵の自陣突破を阻止するために行われる砲爆撃の事)による集中砲火なら至近弾で九七式中戦車を(バラバラはさておき)撲滅、つまり大破状態まで持ち込める可能性があるのではないか」という意見です。

私も実際以前から集中砲火による砲爆撃で九七式中戦車が耐えうるのかどうか、については疑問を感じており、手元にはそれに答えられそうな資料が少なく、自分の手に届く範囲だけでは手一杯の状態でした。
そこで、その頃私はたまたま東京の目黒区にある「防衛研究所史料閲覧室」に行く予定を立てていたので、そこで何か有力な手がかりがあるのでないか、と探してみることにしました。

するとなんと、向こうに「戦車の榴弾の至近弾に関する問題」と「集中砲火に関する問題」をそのまんま解決してくれる資料が2つも見つかるではありませんか。
今回の資料は資料そのまんまを(コピーなりで)転載することは出来ず、引用だけに落ち着いてしまいますが、今回の疑問にかなり答えてくれそうな資料です。

今回はその資料をもって、九七式中戦車の砲爆撃対抗性能について話していきたいと思います。






今回発見した資料の一つ目は、昭和十九年七月発行の「対戦車戦闘の参考」(※1)の付録として付いてきた「各種火砲榴弾対戦車威力表」というまさに直球の資料です。
主な内容は個人火器の対戦車兵器やその戦術を解説した資料ですが、この「各種火砲榴弾対戦車威力」はただの付録なので、量的にはたった1ページだけの資料でした。

今回、残念ながらこの付録をそのままここに掲載することは無理なので、私で内容をまとめたものを画像として作成してみました。それがこちらです。


「対戦車戦闘の参考」まとめ


内容は簡単に、九六式十五糎榴弾砲、九二式十糎榴弾砲、九〇式野砲、四一式山砲、九二式歩兵砲の各種榴弾を戦車に射撃した際の簡単な効果と、その摘要が書かれています。
まずは規模が小さい順に九二式歩兵砲から見てみましょう。

九二式歩兵砲では「命中部位により若干効力を示すことあるも、一○粍以上の装甲部位に対しては内部的効力を期待し得ず」とあり、10ミリ以上の装甲には奇跡でもないと戦車に対して損害を及ぼす事ができない、とあります。
これは九七式中戦車とそれ以前の制式戦車である八九式中戦車、そしてソ連製戦車である「BT」戦車を目標に射撃をした結果であるという点から見ても確実でしょう。
まあこの辺りの砲については実際穿甲榴弾(HEAT)でも無ければ対戦車戦闘は絶望的です。

その次の四一式山砲、九〇式野砲については「命中せざれば殆ど効力なし」と前置きした上で「命中したる場合には強度大なる部分には効力なきも、その他部分に対しては程度の差はあれの効力あり」とし、防弾ガラスや開口部などの非装甲部分に於いては一定の効果が期待できるようです。
しかし、試験も九七式中戦車とソ連製T-26軽戦車での試験なため、重装甲の戦車では少し勝手が違ってくると思います。

そして火砲の口径(砲身内径)が10センチを超えた辺りからは、ようやく戦車に至近弾での効力が見込めるようになってきます。そのうち九二式十糎榴弾砲では約30センチ、九六式十五糎榴弾砲では約80センチの場所に榴弾が落ちれば効力を発揮する、とあります。

しかし80センチというとそれこそ1歳児の平均身長程度しかない距離感です。戦車に対して何かしらの効力を与える最低距離が80センチとなると、よほどの精密射撃か数を撃たなければまず当たらないでしょう。そして、苦労して至近弾を食らわせてもこれだけ段階的に書かれた上での「効力がある」程度なので、勿論至近弾で車体がバラバラ……なんてのは到底無理な話です。
個人的には前回のブログ内容と合わせて考えると、それこそ「一、二時間以上戦列を離脱せざるべからざる程度」の損害しか与えられないと考えています。

更に注意すべきは、この2つの火砲の摘要です。この二つだと「八九式中戦車での静止破裂」での試験結果なため、八九式中戦車よりも装甲の強度が上がり、そのうえ厚くなった九七式中戦車では被弾結果が変わる可能性が十分にあるのです。



恐らく、これで「榴弾の至近弾で九七式中戦車はバラバラになるか、或いは致命的大打撃を受けるか?」という問題に関してはこの資料を以って「No」と言えるほどの回答が得る事が出来たかと思います。

では、実際にその榴弾が大量に降ってきた場合は?大量の榴弾の弾幕による阻止砲撃を九七式中戦車は耐えることが出来るのか?
その答えについてはもうひとつの資料を見ながら考えなければなりません。









二つ目の資料は、教育総監部発行の「機甲部隊の戦例集 大東亜戦争関係」(※2)という本の中にある「砲兵の阻止射撃を受けたる戦例」というまさに直球のタイトルです。
その気になる内容は、計六つの実際にあった事例の概要と敵の砲兵の射撃状況に範囲内における弾数、それに伴う損害が状況を示す図と共に書かれています。
この戦闘詳細には日時も書かれているので、恐らく他の資料による突き合わせも可能かもしれませんが、それをするととんでもなく長くなってしまうので、今回は他の人に任せたいと思います

そして資料の後ろの方には「戦車に対する砲兵射撃の効果」として今回の戦例から得ることが出来た戦訓を掲載してありました。陸軍の意識を知るという意味でもこれは重要な内容であることは確かでしょう。

では、いい加減問題の資料の方に触れていきましょう。


まずは「砲兵の阻止射撃を受けたる戦例」ですが、これも残念ながら図・文共に丸々お見せすることが出来ませんので、全部で6つある戦例自体の細かい紹介はせずに、一番重要な情報を抜き出して簡単にまとめてみました。
その画像がこちらです。(拡大してご確認ください)


「機甲部隊の戦例集 大東亜戦争関係」まとめ


これを見ると分かるように、どの例でも大体1ヘクタールにつき300~400発近くの猛射を受けているでしょうか。
勿論、ここに書かれた数値を鵜呑みにするわけではありませんが、中には日をまたいで砲撃を受けている部隊、小規模ながら航空爆撃を受けてる部隊もあり、少なくともどれも散発的な砲撃では無いと確信できます。

しかし、損害の項目に目を移すと興味深い内容が書かれていました。
まず、この全ての項目に共通して言える事は「人員の損害がほぼ全て車外に出た者のみ」という点です。
一例のみ車内の乗員の被害を確認できますが、それも10分間の気絶のみであり、他に目立った被害が無いという点では大々的に「人員の損害」としてカウントしていいものか少し悩むぐらいのものです。

更に車輌の損害を確認すると、2例を除いて「転輪破損」「無線空中線破損」しか目立った被害がありません。車輌によっては榴弾が直撃したのに無傷、という事例もあったりするぐらいです。
この際書かれる「小移動に支障なし」という文字から見るに、前回ブログ記事で紹介した資料の一文「一、二時間以上戦列を離脱せざるべからざる程度」というのはこの程度以上の損害を指すのかもしれません。



ではこの内容を踏まえて、この戦例を元に書いた戦訓である「戦車に対する砲兵射撃の効果」の内容を見て行きましょう。
結論としては「戦車に対する砲兵射撃の効果」の「間接射撃による効果」の項によると

"時間関係を不問に附し戦車の集結地に1「ヘクタール」二百五十五ないし四百発の阻止射撃(十二榴主力、二十四榴及び迫撃砲各一部混用)を受けたるも戦車に対して大なる被害なく(左記参照)又人員は若干の損害を受けたるもその大部分は戦車外に於いて受けしものなり"

と、戦車部隊は数例に於ける阻止射撃において車輌・人員共に大きな損害を受けていないことを指摘し、参照にて

"戦車は空中線大半破損し大破片を被りしもの十数輌に及びしが致命的損傷を受けたるものなく下の二例を最も大なる被害とす"

として「その四」での中戦車に穴が空いて乗員が10分間気絶した被害と、「その六」での中隊長車故障の被害の二点を挙げ、その上で

"然るに砲弾の徒歩兵に対しては攻撃準備の妨害または指揮組織の崩壊ないしは徒戦分離を招来し就中基の精神的打撃(特に未経験者に対し)は甚大にして所謂「もう行かぬ」の感を懐かしむものありて依然大なる苦手たるも……"

と、生身の人間の攻撃、または歩兵と戦車を分断する目的とした阻止砲撃は効果があると認めつつも

"……苦手たるも馬来(マレー)作戦に於いて受けたるが如き密度を以ってしては戦車のみより成る部隊は阻止得ざるが如し 而して弾幕は弾丸の集中せらぜらる地域ありて沈著して良く弾著を見届けて行動せば被害を避け得るものの如し"

というように、戦車には阻止砲撃は効かないとしつつ、冷静に行動して弾が集中するところを避ければ総合的に受ける被害を減らせる、と締めくくっています。

つまり、大雑把に内容をまとめると「九七式中戦車は阻止砲撃も苦もなく耐えてしまう」のです。




穿った考え方をすると、これはまだ阻止射撃としては生ぬるい方なのかもしれません。事実、沖縄戦での米軍の砲撃は「鉄の暴風」と言い表されるほどの猛撃でした。

ではそう言わしめるほどに濃密になった大戦後半の米軍の砲撃ならどうか?
実は、これについては明確な資料ではないのですが、生存者による証言が少しあるのです。
昭和二十年度のフィリピン・ルソン島で激戦を繰り広げた戦車第七連隊の生存者の方々によって編纂された「戦車第七連隊史」によると、二十年一月二十日の記述にこんなものがありました。


 七時を過ぎると、東西五百米、南北三百米位のサンマヌエルの中心街は、大小口径の砲弾を雨のように浴びることになった。本物の雨の方は今日で四十日以上降らない、その代わりに文字通り弾雨が降る。
 戦車の乗員や車外員は、砲撃が激しくなると車内や底板の下にもぐり込んで、何とか損害を避けられるが、気の毒なのは歩兵、砲兵、工兵等の兵士たちで、蛸壺の中しゃがんで居ても敵砲弾の直撃を受けたり、周辺の木の枝に当たって破裂した砲弾の破片が上から降って、負傷者や戦死者が続出する。
 
(中略)

 反復してからの機銃掃射が終わって、飛行機が見えなったので、ほっとしてる暇もなく再び激しい砲撃が再開された。野砲や榴弾砲に大小口径の迫撃砲が加わって、今までにない激しい砲弾の落下である。
 この爆撃により、砲兵の数名と連隊の数名の損害が生じた。こうして逐次兵力が損耗していくが、機が熟すまでじっと我慢していなければならないのは、防御する将兵にとって辛いものである。
「戦車第七連隊史」 P.355より



この後、二十日は一端砲撃が止みM4の大部隊が攻めてくるもそれを撃退、その後更に一昼夜かけて砲爆撃が繰り返され、その後数日間砲爆撃が続く……と言った有様なのですが、この間一切の戦車の損害の記録がありません。人員は数名負傷、戦死と言った感じに記述がありますが、戦車の損害に関する記述は見当たりませんでした。

いくら連隊史とは言えど、500メートル×300メートルという狭い範囲に大量の砲爆撃が行われ、なのにその間の戦車の損害に関する記述が一切無いというのは無視できない情報であると私は思うのです。









今回は新たに発見した資料で、前回『「榴弾の至近弾でバラバラになるチハ」の謎』の内容増強となる資料と、もう一つ「阻止射撃で戦車は耐えれるか否か」という疑問に回答した形になりました。

勿論、いくつかの偶然が重なれば理論上至近弾でも撃破は可能でしょうし、これらもまた新しい資料が出て来ればまた違った結果になるやもしれません。
しかし、現状私が確認した資料の中では「榴弾で九七式中戦車に大損害を負わせる」という記述は確認することが出来ませんでした。それどころか、一転して「九七式中戦車は弾幕射撃を耐えうる性能を有してる」と言えなくないところまで認識を変える資料まで出てきています。これは簡単に捨て置いていい事実とは言い切れないと思います。


そう考えてみると、九七式中戦車というのは「脆い戦車」どころか存外頑丈な戦車であると認識させられる、今日このごろの私でした。



・参考文献
「対戦車戦闘の参考 昭和19.7」…防衛研究所 史料閲覧室蔵書(※1)
「機甲部隊の戦例集 大東亜戦争関係」…防衛研究所 史料閲覧室蔵書(※2)
「戦車第七連隊史」…私物

・参考文献提供先
防衛研究所 史料閲覧室

※今回のブログ内容のコピペ引用、画像の無断利用を固く禁じます。

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